花を「いける」

鈴木榮子氏

 
この記事は2004年~2005年に発行致しました「日本の伝統マガジン」に掲載頂いたコラムです。

<第1回>

スイトピー、チューリプ、菜の花と春の花がにぎやかな季節です。
お花は好きですか?
今、花屋さんになりたいという小学生が多いそうですが、花の人気が高いことの表れでしょう。
世界中の大都市では、どこに行っても空港、ホテル、レストランなど公共施設は花で飾られています。
花は、パーティー・イベントなどで華やかさを演出するものとして欠かせませんし、結婚式・葬送といった セレモニーでは神聖な雰囲気を作る小道具にもなります。
室内の装飾だけでなく、ブーケ・コサージュ・髪飾りと身を飾るためにも使われますし、愛の告白・ギフトに使われたり、占いにも使われるなど、花は幅広く人々の暮らしに取り入れられてきました。
花の消費は文化を測るバロメーターとまで言われますが、それは、花が生活の色々な面で幅広く使われているからです。

このように世界中で身近に愛される花ですが、室内装飾の花の挿し方に決まりを作り、いけばなという文化を築いたのは日本だけです。
中国のように、いけばなと似たような作品を作る国もありますが、単に花を楽しむだけでなく、作品に精神をこめ、家元制度を整えた花道という「道」にまで発展させたのは、日本だけです。

専門的には、花を挿すことを「花を立てる」「花をいける」と使い分けます。
どのように違うかは、とんでもなく難しい話で、それは、いけばなの本質を究めることにもなります。
浅薄ながら研究を重ねていますので、私の目からみた、いけばなの本質を「立てる」と「いける」の差異を含めて書いてみましょう。
どこまで書けるか、わかりませんが。

申し遅れましたが、私はいけばなを足掛け40年続け、今も師についています。
同時に、大阪、広島でいくつかの教室を開講しています。
いけばなが長い、長い「道」であることを実感しています。
もっとも40年といっても、実は、間で数年間抜けています。
学校を卒業してすぐに航空会社で仕事をし、その後、海外生活をしていたからです。
アメリカ在住の頃は、フローラルデザイナー養成校(フラワーデザイナーとは和製英語です)に毎日通学し、卒業後、ほんの少しですがロスアンゼルスの花屋でアルバイトをしました。
ですから、「いけばな」というより「花」に、40年間接してきたというのが正確なところです。

前述のとおり、いけばな教室を開講しています。
「レッツ エンジョイ イケバナ」という教室です。
教室名が何故英語かというと、生徒に外国人が多いからです。
もともと、海外からの方々を対象に開講した教室です。アメリカ人、イギリス人、オーストラリア人が中心に見えていましたが、今はフィリピン人、マレーシア人、メキシコ人、ブラジル人、イタリア人、ノルウェイ人、フランス人、ドイツ人などと、英語を母国語としない方々も多くいます。
私のわからない言語が飛び交っていますが、共通語は英語です。
それに、今は日本人も大勢いらしています。
英語のわかるもわからないも一緒に、「いけばな」で結ばれる交流の場にもなっている現状です。
こういった背景から、私の教室の特徴は、いけばなの作品と行儀作法を学ぶ、従来のいけばな教室と違って、日本文化としての「いけばな」という視点に立っていることです。
日本文化を意識していますので、授業始めは毎回、パソコンで画像をお見せしながら、季節にあった話から比較文化論や日本文化論に進めて、やさしく講義しています。昨日は雛祭りの「左近の桜、右近の橘」の歴史的背景を説明したところです。
教室の写真はホームページをあげていますので、興味があれば、そちらを御覧になってください。

さて、自己紹介が長くなりましたが、これからお話する内容が、単にいけばな界からの発信というのでなく、国際的にみて、客観的な「日本文化としてのいけばな」を見つめてのことだとわかっていただきたかったのです。
では、次回、お目にかかりましょう。

<第2回>

「フラワーデザイン」って、今、流行っていますね。
実はこれは和製英語です。
フラワーを使ってデザインするものですから、正しくは、「フローラルデザイン」と言います。
デザインフラワーというと、花をデザインすることになりますよね。

さて、もう30年も前になりますが、私がアメリカに住んでいたときのことです。
あるschool for floral designers (フローラルデザイナー養成校)に毎日通学し、卒業後、フローラルデザイナーとして花屋で働いていた時期があります。
この時、私はいけばなとフローラルデザインの違いを、身を持って学びました。
今日は、その経験から少しお話しますね。

海外のフローラルデザイナーのための学校は、数多くはないのですが、あります。
ただ、花屋さんが経営するものなので、花屋さんになりたい人が通う学校です。
ですから、実技以外にも、経営学・仕入れと小売・配達などといった、花屋業ノウハウの授業もあります。
花を売るために、フラワーアレンジメントをきれいに作り、それを店頭に並べる。
そのためのテクニック習得の学校というのが、本当のところです。

花屋さんの協会で、FTDという組織があります。アメリカは大きな国なので、時差もあり、新聞にしても、テレビにしても全国組織があるのは珍しいのですが、FTDは全国組織です。
日本でもNFTDという、N(Nippon)をつけた呼び方の組織がありますよね。
「世界中どこでもお花を贈れます」というキャッチフレーズのあれです。

FTD関係主催でも、作品制作の勉強会があちこちであります。
すべて、花屋業のためのものです。ですから、お客様が喜びそうな、華やかで、目立つもの、人々の生活に密着したものが紹介されるのです。
イースターならラビットを、感謝祭なら七面鳥を花で作っちゃう、みたいなノリです。
植物を1本1本見つめて、花をいかしてというような考えは、元来、ありませんでした。何せ、アレンジメントにして、小売する、それが目的ですから。

海外には、花を小売するのでなく、作品を制作する技術だけを売る、つまり、いけばな教室のようなものはありません。
(もっとも今は、いけばなの影響で、そういう学校もあると聞きますが。)

日本の「いけばな」は世界中の花屋さんに影響を与えています。
私が通学していた頃でも、枝ものを使ったり、非対称にするものをOriental Arrangementという名前で呼んでいました。
ある花屋さんは、FTD内でも著名なアレンジャーでしたが、彼は日本でいけばなを学んできましたと、自慢げに話し、自分の著書にも書いています。
プレゼンテーションでは、しきりと、いけばな技術を取り入れて見せてくれました。
1本、1本の花をよく見つめてなどと言って。
つまり、当時のアメリカでは、日本のいけばな技術を持っていることが、自慢の種だったのです。
いつの間にか、この風潮は逆転しています。
お気づきですか?

日本のいけばなの技術が取り入れられて、作られたアレンジメントを、日本人が、ありがたがって西洋人から学んでいるのです。
何でこんなことになっちゃったのかしら?? その辺の話しは、また次に。

<第3回>

「いけばなとフラワーデザイン-アメリカの養成校」

あざみが一杯咲いています。
初夏の風が吹いています。
お元気ですか。
アメリカでschool for floral designers (フローラルデザイナー養成校)に毎日通学していた頃の話をしましょう。
私は、その頃、すでに、いけばなの教授資格をもっていましたので、授業でするアレンジメントも、つい、いけばな風になってしまいました。
今思うと、あの頃の戸惑い、手直しされたやり方、そういったものが、いけばなと西洋のフラワーアレンジメントの差異を表していたのです。

一例を挙げましょう。いけばなでは、花材と花材の間を大きくあけるところを作ります。
作品の中に粗密を作り、不均衡でありながら安定感のあるバランスにする。
それが、いけばなの美しさです。
一方、アレンジメントは形を丸なり、三角なりに決めて、その中を花で埋めていくという手法です。花と花の間を均等に埋めたものが上手なアレンジメントです。
どこから見てもきれいで、花が多いので華やかです。

さて、いけばなに慣れている私には、授業のレッスンは難しいものでした。
丸や三角といった外形を作るまでは簡単なのですが、外形の中に花をいれていく際、間を均等にという作業が難しいのです。
きちんと均等にいれると、私には何だか窮屈にみえ、きれいに見えないのです。作品の中に、どこか息抜きできるところがほしい。
遊びの部分もほしい。
養成校の授業では、センターピースのお椀をふせたような基本の形は何度もレッスンさせられます。大分わかりかけてきたある日、また、この形のレッスンといわれました。
プラモデルみたいに、どこに何をいれるかが決まっている作品は、私には面白くない。
それで、私は、無理に少し間の大きくあいたところを作り、粗密を作って、花材を遊ばせてみました。
これなら、花同士が競い合わず、どの花もがイキイキみえる。きれい。内心喜んでいると、Steveという主任の先生がまわってきて、私の机の横でピタリと止まりました。‘Eiko, I see a hole here. (ここに穴がみえているよ)’。
粗密の間の大きくあいたところを指さしています。
モウーッ、無理にあけたのに。。。

美しいと感じる意識が異なるのです。
フラワーアレンジメントは、きちんと定規をもってユガミのない、揺るぎのない作品が美しいのです。いわば、表層の美しさです。
一方、いけばなは、花によって、枝によって、長さ・角度・位置を変化させ、手にする花材に合わせて1本ずつ挿していきます。
これは、花材と対話しながらでないと出来ません。
世のなかに、全く同じ花材など、ふたつとありませんので、各花材に合わせて作品にするいけばなには、全く同一のものはありえません。
違う花材の、ひとつひとつの差異を見つけて、どれもが一番キレイにみえるように挿す場所と角度と長さを探して制作していく。
これが、いけばななのです。
クイズみたいで楽しいですよ。
対話する言葉を学ぶのが、いわば稽古です。
どう見ると、きれいなのか、美しく見せられるか、そういった植物の扱い方を学ぶのです。
ですから、いけばな作品は、外形が初めから決まっているというものではありません。 (例外もあるのですが)
私は多くの外国人にいけばなレッスンをしていますが、稽古を始めたばかりの生徒さんは、よく、教科書の写真を指差して、「私、今日はこれをするのよ」と、表層の形だけを真似します。ン。。。、こういった生徒さんに、いけばなを説明するのは、ともて苦労します。
だって、教科書の写真に使われる花材と、眼の前 にある花材が全く同じなんてことはないのですから、同一のアレンジメントなんて、ありえないのです。
深層で、花と対話しながら進めるのよ、な~~~んて、

初心者に言っても通じるわけがありません。
まずは休まず来て下さいとしか、いえないですね。
クラスの様子は私のホームページを御覧になってください。
http://www.hbs.ne.jp/home/suzuki/
ところで、先のSteveですが、いつだったかアメリカのフラワー関係の雑誌をみていたら、ちょび髭を生やして、今は校長先生になっていました。もう、Hey Steve!なんて呼び捨てできないみたいで、少し寂しいような。。。
お話することが一杯ありすぎて、つい、長くなってしまいます。
昨今の日本のフラワーアレンジメントについても付け加えておかなければならないことがありますが、また次回にしましょう。
ではまた。

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