キモノと文化

堀口初音(ハツネ)氏

 
この記事は2004年~2005年に発行致しました「日本の伝統マガジン」に掲載頂いたコラムです。

<第1回>

「スローライフ」という言葉はすっかり定着しましたが、考えてみるとキモノはまさに「スローウエア」だと言えます。
風土に合った健康的な生活が「スローライフ」なら、キモノ以上に日本の風土と日本人の体格に合った衣服はないと思います。
海外旅行先などで、欧米人の中にいる日本人を見て「日本人って洋服が似合わないんだな・・・」と感じたことのある方は多いのではないでしょうか?
最も日本人を美しく見せる衣服は、やっぱりキモノですよね。しかもキモノって、年間を通じて快適に暮らすことができるんです。
冬に暖かいのは有名ですが、夏も室外では直射日光から、室内では強すぎる冷房から体を護ってくれます。
男性の帯や袴は姿勢を正してくれるし、女性の着物や帯は体を冷やしません。
その上美術工芸品としての一面があったり、親から子へ孫へと家族で受け継がれていく歴史としての一面があったり・・・。
四季や教養を身に纏うことができるのもキモノならではですよね。健康的で合理的で、文化としても大変優れているキモノ。
忙しい現代、「スローウエア」としてのキモノをもう一度見直す時期が来ているように思うのです。

<第2回>

洋服の場合、柄と柄をコーディネートすることはごく稀ですが、キモノは柄on柄で合わせるのが普通です。
すると合わせ方によって、ストーリーを表現することができるのです。
例えば今の時期ですと、あられ柄のきものに雪の結晶柄の帯を合わせてホワイトクリスマス。クリスマスリースの形の帯留めをしたり、雪だるまの半衿を合わせたりして。
宝尽くし柄のきものに竹柄の帯を合わせてかぐや姫を表現、とか桜柄のきものに鱗柄の帯で舞踊の『道成寺』を観に行くとか。
こんなふうに、いくらでもストーリー性のあるコーディネートを思いつくことができますよね。
日本人は、昔から衣服に遊びを取り入れてきました。
十二単のかさねの色目なども季節の表現が繊細で洗練されていて、ほんとに感心してしまいます。
キモノならではの豊かで知的なおしゃれ、ぜひ楽しんでみてください。

<第3回>

あけましておめでとうございます。
昨年はキモノ元年とも言えるほど、次々とキモノ本が出版されたりテレビでアンティークキモノが紹介されたり等、キモノに対する注目度が高くなった年でした。
今年はいよいよキモノブーム到来?
キモノに興味をお持ちになった方が、実際にお召しになってお出かけされる年になればいいな、なんて思っています。
さて、お正月といえばキモノ。
普段ならキモノ姿でいると「今日は何の日ですか?」という視線に耐えなければいけませんが、お正月ならノープロブレム。
出会った方々から「やっぱりキモノはいいですね」って、褒められること請合いです。
箪笥からお母さまのキモノやおじいちゃまのキモノをひっぱり出して、ちょっと羽織ってみませんか?
キモノは着付けが難しい・・・と思われるかもしれませんが、昔の人は誰でも日常着として着ておられたのですよね。
しっかりお出かけするときはある程度きちんと着た方が素敵ですが、おうちの中やご近所をちょっと散歩されるくらいなら、きっちり着付けなくても大丈夫。
襦袢とキモノをふんわりまとって要所に紐を締め、帯をくるっと巻いて結んでください。
浴衣のときの帯でもいいんですよ。
布に包まれる感覚の想像以上の心地よさに、きっとはまってしまいますよ!

<第4回>

寒い日が続いていますが、お変わりありませんか?
私はキモノ生活のお陰で風邪ひとつひかず、元気にしております。
私は寒い地方の出身なのですが、冬になると祖母や母は「ぬくいから」という理由でキモノ生活をしていました。
全くの普段着で、家事もしますからウール素材のキモノです。
ウールキモノは家庭で洗うことができますし、軽くてしわにならず、また暖かく、冬の普段着としてはとても優れた素材だと思います。
家の中では半幅帯に「ひっぱり」と呼ばれる上っ張りを着て、近所に出掛けるときは名古屋帯をお太鼓に締め、羽織にストール、手袋をしていました。
女物のキモノはお腹まわりを幾重にも温めますから、冷え対策は万全なのです。
ファッションとしてではなく「実用としての」キモノも、ほんの少し前までは一般的だったのですよね。

<第5回>

いよいよ3月、気持ちの上では春到来ですね。
さて今月は卒業式シーズン、読者の中にも学校を卒業される方がいらっしゃるのではないでしょうか?
卒業式での衣服といえば、女子学生は袴姿が多いですね。
まさに人生の春、何を着ても美しい年頃ですが、華やかな中にも凛とした袴姿の集団を見るとつい見惚れてしまいます。
明治・大正時代の女学生の制服であった袴姿が、現代でも式服として伝承されているのですね。
以前は矢絣の着物にブーツを履いた袴姿は普段着、式典のときは紋付の着物に草履を履いたようですが、現代は御召・小紋・紋付・訪問着・振袖と、袴に合わせる着物はかなり自由です。
どちらかというとコスプレの要素が強いからかな?
でも晴々と着こなしておられるお嬢さんを見ると、格式などかたいことはまあいいかな、と思ってしまいます。
男性の袴姿もとても格好いいので、これからは男子学生の袴姿も増えてほしいものですね。

<第6回>

四月の着物といえば、やっぱり桜に尽きますね。
桜は日本人が大好きな花、ですから桜柄の着物はとても多いです。
意匠化された桜は年中着ることができますが、写実的な桜の着物は、やはり今の季節に着たいですね。
一般的に花の着物は「実際に咲くよりも少し早めに」着ることが良いとされています。 これは、実際に咲いている花と着物の花とが競わないようにするため。
自然を畏敬した、とても奥床しい感覚だと思いませんか?
また季節を少し先取りすることで「あぁもうこんな季節なんだな」と、見る方にほっこりしていただくのです。
ですから、桜の柄でしたら桜が咲く前に着るのが本当は素敵ですね。
さらにこだわる方でしたら、つぼみから満開、花びら、そして葉桜まで絶妙なタイミングで変化させていくおしゃれを楽しまれます。
つぼみのときに咲いている柄、満開のときには花びらのみの柄・・・というように。 作家の宮尾登美子さんは、「4月11日の桜」の着物をお持ちだそうです。
この着物は、4月11日以外に着ると違和感があるそうです。
作家ならではの繊細な感覚だと思いますが、その着物を作られた染色家の方も凄い力量ですよね。 ため息の出るような贅沢なお話です。  
桜柄の着物でなくても、身近な小物で着物姿に桜を取り入れることもできます。
桜の箸置きに専用の金具を付けて帯留めにしたり、半衿に桜のシールを貼ったり。
ハギレを桜のかたちに縫い合わせて、帯飾りにしてもいいですね。
心が浮き立つようなこの季節、さりげなく着物姿に桜を取り入れてみられてはいかがでしょう?

<第7回>

新緑がまぶしい季節になりましたね。 GW真っ最中、皆さまは楽しい休暇をお過ごしでしょうか? 今回は「衣替え」のお話です。  
現代では着物は季節に応じて「袷」「単衣」「薄物」を着分けます。
表地と裏地を二枚縫い合わせたものが「袷」、一枚仕立てのものが「単衣」、単衣の中でも生地が薄い夏物を「薄物」と呼びます。
以前は10月~5月を「袷」、6月と9月が「単衣」、7、8月が「薄物」と決まっていました。 ところが着物を日常的に着ていた頃とは環境が変わってしまい、全体的に気温が高くなっていますから、以前のルール通りでは少し無理が出てきているようです。
私が住んでいる関西地方では、特に5月の「袷」、9月の「単衣」はツライですね。
ですから私は、季節のルールより体感温度に忠実に着物を着ています。
「格」といわれる着物のTPOのマナーは守っていかねばと思いますが、季節のルールにはあまりこだわらないことにしています。
いかにも暑そうに着物を着ていては、見ている方に不快感をもたらすのではないかと思うからです。 季節のルールを気にするあまり着物を着なくなるより、すっきりさっぱり、体感温度に応じた着物を着たほうがいいと思うのですよね。  
もともと「衣替え」の風習は、平安時代の宮中で中国に倣ってはじめられたものだそうです。 それが庶民の間にも広まり定着したようですが、以前は「袷」「単衣」「薄物」という三つの区分ではなく、もっと細かく分けられていたようです。
三つに分けられたのは昭和に入ってからですから、そんなに古くからの決まりというわけでは無いんですね。
時代と共に変化していくのが衣文化ですから、現代においても環境に合わせて変化させていくのが自然です。
季節感は色や柄・小物類で演出することにして、素材や仕立て方は快適さを第一に考えるのが、現代の着物のおしゃれだと思います。

<第8回>

いよいよ梅雨シーズン到来ですね。 雨は着物の大敵・・・と言いたいところですが、装備さえしっかりすれば、そう大変でもないんです。  
絹の着物は確かに水分が苦手ですが、その他の素材、例えば木綿、ウール、麻、ポリエステルなどの着物でしたら少々の雨ならそのまま歩いても平気です。
雨の日にお出掛けする場合は、このような水に強い素材の着物を選ぶことも一案です。
またもし絹の着物を着る場合でも、”雨コート”を羽織り、”雨草履”や”雨下駄”を履くと大概の雨なら大丈夫になります。
”雨コート”は撥水加工をした生地で作ったロング丈のコート、”雨草履””雨下駄”は爪皮という、ビニールなどでできたカバー付きの草履や下駄のことです。
鬱陶しい雨の日ですが、お洒落な雨コートや雨下駄を選んでおくと、雨の日が楽しみになります。
傘の柄や水玉柄の雨コートもあるんですよ。
呉服屋さんのほか、リサイクルの着物ショップでもたまに出ているので、サイズの合うものを用意しておかれるといいですね。  
また、思い切って雨の日は絹以外の着物を着る、というのもアリだと思います。
足元は、普通の草履は水に弱いので、古くなった白木や塗りの下駄を履きます。
その場合は大判のハンカチやタオル、それに替えの足袋を用意して。
水に強い素材の着物だと、雨の日でも大げさにならずに町を闊歩できて、なかなか快いのです。

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